教科の学びでのポイント
単元の目標
- コンピュータがプログラムで動いていることを理解すること。
- どのような動きをどのような順序でさせればよいのかを考えること。
- どのように改善すれば自分たちが考える動作により近づいていくかを試行錯誤しながら考えること。
- 便利な道具にはコンピュータを利用したものが多いことに気がつき,自分たちがコンピュータを利用し,よりよい社会にしていこうと考えること。
プログラミング的思考とのつながり
新学習指導要領解説 総合的な学習の時間編では,『プログラミングを体験しながら論理的思考力を身に付けるための学習活動を行う場合には,プログラミングを体験することだけにとどまらず,情報に関する課題について探究的に学習する過程において,自分たちの暮らしとプログラミングとの関係を考え,プログラミングを体験しながらそのよさや課題に気付き,現在や将来の自分の生活や生き方と繋げて考えることが必要である』とされている。
本単元ではユニバーサルデザインの道具を作るのに,全てmicro:bitを利用する。イギリス発のマイコンボードであるmicro:bitは各種センサー,LED表示を備えており,こうした機能は実際にユニバーサルデザインの道具に多く使用されている。
子どもたちが課題を解決するためにどのような道具を考え,そのために必要なプログラムを考え,micro:bitを動かし,それをさらによりよいものにしていくようにさせる。そうした過程の中で友だちと対話したり,試行錯誤をさせたりして,粘り強く探求させたい。
評価規準
知識及び技能 | 思考力,判断力,表現力等 | 学びに向かう力,人間性等 |
①高齢者疑似体験や今までの福祉講話,普段の生活から高齢者や障害を持った人がどんなことに困っているかがわかる。
②自分が作成する道具にはどのような技術が使われているのかがわかり,その技術を使える。 |
①障害を持っている人や高齢者などが暮らしやすい社会にするためにはどんな道具があるとよいか考える。
②作成した道具を試し,よりよいものにしようと考える。 |
①道具を作ったことから身の回りのものをみんなが暮らしやすいという視点で選ぼうとしている。
②福祉を自分事に捉えられるようになる。 ③課題解決に粘り強く取り組もうとしている。
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単元について
本単元は「福祉」という視点で子どもたちに身の回りを見つめなおさせ,課題を発見し解決を図ることを指導のねらいにしている。子どもたちは「福祉」という言葉を聞くと,障害者の方々を思い出すことが多い。実際に本校でも毎年福祉集会が行われ,障害を持った方々をお招きして,お話を聞いている。しかし,本来「福祉」とは誰もが幸せに暮らせるようにすることであり,障害者の方々だけでなく,高齢者,乳幼児,そして私たち全てが対象である。子どもたちの「福祉」に対する意識を改めさせるとともに,みんなが暮らしやすい社会の一員になれるようにどうすればよいのかを考えさせたい。
みんなが暮らしやすい社会の実現のためには多種多様な切り口が考えられるのだが,今回はユニバーサルデザインの道具を取り上げることとする。ユニバーサルデザインとは,年齢や障害の有無,体格,性別,国籍などにかかわらず,できるだけ多くの人にわかりやすく最初からできるだけ多くの人が利用可能であるようにデザインすることである。昨今ユニバーサルデザインの道具が増えている。その背景に人々の意識の向上だけでなく,それを可能とした科学技術の発達もあるであろう。
本校では昨年までも「福祉」という視点で総合的な学習の時間の学習を行っていたが,福祉講話や障害者・高齢者体験をし,それらの方々の困っていることを理解し,どのように手助けをすればよいか考え,そうした機会があれば行動に移そうという流れであった。道徳と何が違うのか,課題解決的な学習の流れはどこにあるのかという教師側の課題があった。本年度は,今までの福祉講話や高齢者疑似体験,日常生活の振り返りなどから,子どもたちに当事者意識を持たせ,何が困るのだろうか,そしてそれを解決するにはどのような道具があればよいかを考え,実際に作ってみる。この学習の流れのほうがより子どもたちが「福祉」について深く学べるであろうと考えた。
学習指導計画 (全12時間/ うち学校裁量の時間2時間)
時 | 学習活動 | 留意点・評価 |
1
2 |
○体験活動
・アイマスク体験 ・耳栓体験 ・高齢者疑似体験 |
☆知・技① |
3 | ○課題設定
・体験活動からどのような道具があればみんなが暮らしやすい社会になるのかを考える。 ・二人組でそれぞれが考えてきた道具を発表し,自分たちが作りたい道具を考える。 |
※宿題としていくつか道具を考えてこさせておく。
☆思・判・表① |
2
時 間 |
○micro:bitに触れよう
・オリエンテーション ・プログラムの書き方を学ぶ ・各センサーの動きをしり,そのセンサーを動かすプログラムを作成する。 |
※学校裁量の時間で扱う。
※プログラムを書くことが初めてなので2時間設定。micro:bitの体験だけであれば1時間でよい。 |
※設計図をもとに教師が実際にプログラムを作成してみる。
(教師のための作戦タイム) |
||
4
5 |
○課題設定
・自分たちが作りたい道具がmicro:bitで具現化できるか考える。 ・もしできない時は,他に考えてきたものの中から再度選ばせる。
○課題解決 ・どのようなプログラムを作成すればよいか自分たちの言葉で紙に設計図を書かせる。 |
☆知・技②
☆思・判・表② ※教師のための作戦タイムが必要なため日を変えて行う。 |
6
7 (本時) 8 |
○課題解決
・プログラムを書いて,micro:bitを使った道具を動かしてみる。 ・よりよい道具になるようにプログラムを修正する。 |
☆知・技②
☆思・判・表② ※教師のための作戦タイムが必要なため日を変えて行う。 |
9 | ○発表会
・自分たちが作った道具を発表するとともに,どのようなプログラムを作成したかも発表する。 |
☆知・技② |
10 | ○まとめと振り返り
・自分たちが作った道具と同じようなものが実際に使われていないか調べる。 |
☆学・人①② |
本時について
(1)目標
自分たちが考えた道具を改善しよりよいものにする。
(2)展開
分 | 学習活動 | ◯指導上の留意点 ☆評価 | |
5
30
10 |
■ 課題をつかむ
■ 改善点を考える ・前時で作った道具を試してみて、改善点はないかを考える。
■ 改善作業 ・プログラミングを付加修正する。 ・道具を作りなおす。 ■ ふり返りをする・どこが難しかったか、どこを工夫したのかなどをふり返りシートに書く。 |
◯前時に道具が完成していないグループは引き続き作業をさせてから,取り組ませる。
◯実際にmicro:bitにプログラムを送り,動かし改善を図るようにさせる。 ◯よりよい動きになるように考えさせる。
◯振り返りシートの準備 |
(3)評価 自分たちが考えた道具の課題を明らかに,よりよいものになるようにできたか。
○メロディーさいふ
目的:目の不自由な人が財布を落とした時のために探せるようにするため。
機能1:財布を落とすとメロディーがなる。
改善点:落ちた財布がどこにあるかはわからない。
機能2:財布に近づくと音が鳴ってどこに落ちているかだいたいわかる。
使用したもの:micro:bit2個,スピーカー,距離センサー,電池ボックス
○ラクラクイス
目的:高齢者が座った時に椅子の高さを調整するため。
機能1:リモコン2台(micro:bit)を操作し,椅子が上がってくる
改善点:リモコン2台を操作することが難しい。
機能2:モーター2台を一つの回路に組み込み,リモコン1台で操作できる。
使用したもの:micro:bit2個,プログラム制御スイッチ,ブルーソニック
○自動ライト
目的:足の不自由な人が電灯をつけるため。
機能1:部屋の中が暗くなると自動でライトがつく。
改善点:人がいなくてもライトがついていては電気がもったいない。
機能2:人がいなくなったらライトが消える。
使用したもの:micro:bit1個
※micro:bit用の人感センサーが未発売だったため,子どもたちが人のいない部屋は温度が低いのではないかと考え,温度センサーを使用した。
○アイコンインターホン
目的:耳の不自由な人が来客に気付くため。
機能1:お客さんが来るとアイコンがついて教えてくれる。
改善点:返事をしないとお客さんが帰ってしまう可能性がある。
機能2:アイコンで返事をしてお客さんに待っていてもらう。
使用したもの:micro:bit2個
○セイフティートレイ
目的:目の不自由な人が安全にお盆で食器を運ぶため。
機能1:お盆が傾くと音が鳴る。
改善点:MakeCodeの初期値の傾きでは食器が落ちてしまう。
機能2:食器が落ちない傾きを測り,傾斜(ロール)を使ってプログラムする。
使用したもの:micro:bit1個
※プログラムは子どもたちが教師のアドバイスをもとに試行錯誤して書いたものであり,おかしいところもあります。子どもたちが考えた通りに道具がだいたい動いていればよいと考えたのでそのままにしてあります。
準備環境
使用したプログラミング言語や実行環境
使用したいグループがあったため準備したもの 児童の感想 ・高齢者になってみて,今まで私は手や足などが動いていて,高齢者の道具を考えようなんて一度も思わなかったけれど,この勉強を通して高齢者の気持ちがわかりました。そのことがわかって,今後は身の回りを見て,どんな便利な道具があるか知りたいと思いました。また高齢者のために便利な道具を作りたいです。 ・自分たちが考えていた通りには動かなくて,二人で何度も相談したり,試したりした。考えていた通りにできた時はとてもうれしかった。 ・micro:bitは初めてやったので難しかったけど,がんばって友だちとも協力してできたのでよかったです。これから技術が発達していく中でそこで作る人になって戦いたいです。(だれにも負けないようなすごい道具を作りたいという意味だそうです) ・高齢者にはできればなりたくないと感じた。なぜかというと体が曲がりづらいし,足が重いからです。だからそうなっても,平気な道具を作っていきたい。そして,安心できる高齢者になりたい。 ・僕が作ったものと似たものがすでに製品としてあったということは,僕と同じことを思っている人がいるとわかった。今度はそういう人たちよりももっと使いやすいものを作りたいです。 ・コンピュータもどんどん進化していくので,もっと便利な道具が増えるといいなと思いました。 ・micro:bitは最初はうまくいくか不安で,失敗した時に直せるかなと思っていたけど,やっていくうちにその不安がなくなっていき,楽しくなってきました。やってみなきゃわからないなということを改めて感じました。これからはみんながくらしやすい社会にしたいなと思いました。
総合的な学習の時間の福祉単元で手ごたえを感じることができました。便利な道具を作るという明確な課題を持たせることができ,それを簡易的なものではあるが子どもたちが考えた通りの道具を作り解決することができたと思います。この課題解決の過程の中で子どもたちは高齢者や障害を持った人になりきり,試行錯誤し,最後は自分事として捉えることができるようになってきました。プログラミング教育の手法を取り入れることで総合的な学習の時間のねらいを深めることができたと思います。 私自身プログラミング教育,そしてmicro:bitを初めて触り,手探り状態の中で授業を進めてきました。子どもたち以上に不安が大きかったです。「先生,こういうことできる?」と質問されてもわからず,私も一緒に試行錯誤していました。子どもと同じ目線でいろいろと活動することでお互いに気付きがあり,楽しくなっていきました。子どもたちから教えてもらうこともありました。教師は子どもに教える存在だから何でも知っておかないといけないという意識が変わり,今では子どもたちと一緒に楽しくプログラミングしています。 (特非)みんなのコード 主任講師 竹谷正明 「自分ごと」にしているというのは、子どもたちは自分が高齢者になることを想定していたり、すでにある製品と自分が考えたものが同じだと気付いたりしたことが感想からうかがわれるからです。それが可能になったのは具体的な製品作りという活動を設定したからこそです。 しかも、これからの社会を考えるときにテクノロジーとの関連を考えることは不可欠であり、そこに比較的導入がしやすい micro:bit を適切に取り入れたからこそ子どもたちの絵空事ではないアイデアを引き出すことができたのだと思います。社会との関わりを考える大事な一歩であり、さらに探究を深めていくきっかけとなったはずです。
振り返り
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